キャリアフィロソフィーの「金融花伝」①:M&A

持続的な成長を目指し、多くの企業がM&Aを活用するようになりました。
そして、多くのM&A案件において、CFO(最高財務責任者)は、CEO(最高経営責任者)や業務管掌取締役とともに、主導的な役割を担っています。

それでは、M&Aに際して、特にCFOが最も留意・着目すべき事項は何でしょうか?

それは、
「利害関係者(その中でもとりわけ、外部株主)に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たすこと」、
そのために、
「アドバイザーや専門家を起用し、説明責任を果たすための材料集めを主導すること」、
であると言えます。

例えば、
国内メーカーA社が、米国のB社を買収するに際しては、
ざっと思いつくだけでも、
①なぜ他の会社ではなくB社なのか?
②米国進出の手段として、M&A以外の選択肢は検討したのか?
③B社の買収価額は妥当な水準なのか?どのような検討を行って妥当と判断したのか?
④買収後のリスクは何か?そのリスクへの対応は?
といった(外部株主等からの)問いかけにしっかり答えることができる材料を揃えておく必要があります。

そのためには、証券会社やコンサルティング・ファームをアドバイザーに起用し「株式価値算定書」を入手する、法律事務所やコンサルティング・ファームを起用して、「デュー・ディリジェンス(DD)報告書」を入手する、といった対応が考えられます。
これによって、
「案件を慎重に進めた」、「M&Aを進めたい立場の経営者の独断でなく、案件を客観視できる専門家の意見を踏まえている」という(説明)材料を入手することができます。
また、B社株式価値算定書に記載の「評価レンジ」内の価額での買収をすることにより、「専門家が評価したB社株式価値の範囲内でB社を買収した」という材料を入手することができます。
さらには、法律事務所やコンサルティング・ファームの「デュー・ディリジェンス(DD)報告書」を入手することにより、「B社の財務、法務、ビジネスに関するリスクを網羅的に洗い出し、対応策を策定した上でM&A実行を決定した」という材料を入手することができます。
これらの(説明)材料の入手は、通常、CFOが主導するため、CFOには、①M&A案件の進捗管理能力のみならず、②社内関係者との調整能力、③外部専門家とのコネクションやネットワーク、④外部専門家の能力を評価する力量、などが求められますし、逆にM&A案件を通じてこれら能力は向上します。私共、キャリアフィロソフィーの経験から申し上げますと、M&Aを経験したCFOには相対的に優秀な人材が多いように思います。

また、B社買収を決定するのは、取締役会です。
取締役会におけるCFOの役割はどのようなものでしょうか?
取締役会が健全に機能するためには、アクセル役とブレーキ役がそれぞれの役割を果たすことが非常に重要です。具体的には、業務を管掌する取締役等はアクセル役の典型、社外取締役や監査役はブレーキ役の典型と言えます。B社買収の決定は、アクセル役が案件推進を主導しつつ、ブレーキ役の指摘や意見を踏まえた上で、満場一致で決定されることが望まれます。
特に、ブレーキ役は、関係資料の閲覧等により得た情報をもとに、取締役会において、リスクの指摘や、専門家の意見を妥当と判断した理由などを質問します。そして、質問に対するアクセル役の説明内容の妥当性を検証します。そして、このように、ブレーキ役がしっかり役割を果たしたという事実、プロセス自体が、大きな(説明)材料となります。
それでは、CFOは?と言えば、CFOはCEOなどの案件推進サイドのサポートと、リスクの指摘や洗い出しに関する社外取締役、監査役との連携の双方をこなす必要があります。CFOは、あくまでも経営者サイドの人間であり、独立社外取締役のように、「独立の立場」にあるわけではないので、別の言い方をすれば、「案件推進サイドの一員として、案件全体をコーディネートし、ブレーキ役の指摘等を踏まえ、十分な材料に基づく取締役会決議を実現すること」がその役割と言ってよいかもしれません。

(次回はM&Aの続きを掲載予定)