本年(2024年)11/22(金)に、キオクシアホールディングス(以下、「キオクシア」)のIPOが公表されました。
本年のIPO銘柄の中でも目玉となる大型案件ですね。
キオクシアは、NAND型フラッシュメモリー世界3位、東芝の半導体メモリー事業がその前身です。2018年にベインキャピタル(以下、「ベイン」)が買収、IPO直前のベインの持株比率は54.9%、東芝の持株比率は39.6%で、他にはHOYA等の株主が存在します。
キオクシアのIPOに関する基礎情報は以下のとおりです。
・上場市場:東証プライム市場
・主幹事証券会社(推薦証券):三菱UFJモルガン・スタンレー証券、野村證券
・監査法人:PwC Japan有限責任監査法人
・上場日:2024/12/18
・オファリング規模等
・ 公募:21,562,500株
・売出し:50,380,100株(東芝35,932,700株、ベイン14,447,400株)
・国内:17,286,500株
・海外:50,380,100株
・OA:10,791,300株 ※グリーンシューオプションの売手は貸株人(東芝+ベイン)
・公募+売出し+OA合計82,733,900株
・上場時発行済株式数(普通株式):539,062,500株 ※左記の他、甲種優先株式1,200株と乙種優先株式1,800株がある。
・想定発行価格(有価証券届出書記載):@1,390円
・上場時時価総額(想定発行価格ベース)7,492億円
・オファリング総額(想定発行価格ベース)1,150億円 ※オファリングレシオ15.3%
・オファリング日程
・2024/11/8:有価証券届出書提出
・2024/11/22:上場承認、公表
・2024/12/2:仮条件決定日
・2024/12/2~12/6:ブックビルディング期間
・2024/12/9:公開価格決定日
・2024/12/18:上場日
以下、キオクシアのIPOに関して、3点ほど補足です。
1点目は、本件が、初めての「承認前提出方式」の活用事例であることです。
上述のオファリング日程にあるとおり、東証の上場承認日は2024/11/22ですが、有価証券届出書の提出日は2024/11/8であり、上場承認日と同日ではなく、承認前に有価証券届出書提出がなされているのが、他の案件と異なる点です。
我が国のIPOでは、公開価格と初値の乖離が大きいケースが多かったこと(過小プライシング問題)を受け、2021年9月に、日本証券業協会にワーキング・グループが設置され、公開価格の設定プロセスの見直しについて議論がなされ、2022年2月に改善策が盛り込まれた「公開価格の設定プロセスの在り方等に関するワーキング・グループ報告書」が公表された経緯があります。そして、改善策の1つに、「上場日程の短縮」がありました。これは、「証券会社が市場環境等の変化による価格変動リスクを考慮して保守的なプライシングを行っているのではないか」との見方を受けたもので、上場承認日から上場日までの期間を短縮し、市場環境等の変化による価格変動リスクを低減するため、従前は上場承認日に提出している有価証券届出書を、上場承認前に提出する方式での上場が可能となりました(承認前提出方式)。これにより、従前は1か月程度であった上場承認日から上場日までの期間を21日程度に短縮することが可能となりました。
「承認前提出方式」においては、承認前届出書提出時点から上場承認時までの期間は、投資家の価格目線を調査するため、価格算定能力が高いと推定される機関投資家や親引け候補先とコミュニケーションを行う期間という位置づけです。そのため、目論見書等を用いた一般投資家に対する案内は上場承認日以降に行われます。
また、承認前届出書では、上場日程を一定の目途として記載することや、証券情報の記載を簡素化し、これらを後日提出される訂正届出書により変更することが可能となるため、詳細な上場日程や発行条件などは上場承認時に開示されます。
発行会社は、「承認前提出方式」、従来の上場承認日に有価証券届出書を提出する方式(承認時提出方式)のいずれかを選択することも可能という建付けです。それもあり、制度改正後も、承認前提出方式を活用する新規上場会社が出てきていませんでしたが、キオクシアが第1号となりました。
補足の2点目は、キオクシアの優先株式についてです。
キオクシアは、普通株式の他に、甲種優先株式1,200株と乙種優先株式1,800株を発行したまま新規上場する予定です。有価証券届出書の開示によれば、いずれも、無議決権かつ普通株式への転換請求権のない社債型の優先株式で、ホルダーは日本政策投資銀行(以下、「DBJ」)1名です。
大雑把に言えば、DBJからの借金と同じと考えておけばよいです。
金額は結構大きいですよ。
優先配当額=優先株式の資本コストと仮定すると額面=優先株式の時価なので、2つの優先株式の時価の合計は3,000億円です。
ちなみに、直近の優先配当額は135億円で、額面の4.5%程度ですが、時期別に配当率が定められていて、今後9%台まで上昇することが定められていますので、これも要注意ですね。
キオクシアはIFRS適用会社で、BS上優先株式を「金融負債」として認識し、PL上、配当金は「金融費用」として計上しているので、キオクシアのバリュエーションを行う際には、留意を要します。
東証規則における優先株式の扱いですが、東証規則は優先株式が存在するまま新規上場すること自体は禁止していません。2022年のセカンドサイトアナリティカのIPOの際にも、優先株式(無議決権株式)を発行したままのIPOでしたし、今回もそうです。
東証上場審査において、どう扱われるかといえば、実質審査基準の1つである「その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」の審査において審査の対象になります。
具体的には、東証は、新規上場ガイドブックにおいて、「申請会社が申請対象となる普通株以外に種類株を発行している場合、種類株の内容によっては普通株主の権利内容やその行使を著しく制約することも考えうることから、当該種類株の内容と普通株主の権利に及ぼすことが想定される影響及びその開示状況について慎重に審査を行うこととなります」との見解を示しています。
例えば、VCが保有する優先株式(残余財産優先分配条項およびみなし清算条項等が付されているような優先株式)については、上場後の普通株式の権利内容に与える影響が大きい上、バリュエーションも複雑となるため上場前に消滅させることが適切である(注)と考えられます。
一方で、セカンドサイトアナリティカや、今回のDBJが保有するキオクシアの優先株式の場合、単なる社債型の優先株式で、上記のような問題がないとの理解です。
(注)何らかの事情で、VCが保有するようなタイプの優先株式を発行したまま普通株式を上場させようとするのであれば、①形式的に普通株式が議決権の少ない株式の要件(上場規程205条(10)号b)を満たす必要があり、かつ、②優先株式の設計が普通株主の権利を害するものではないこと等を東証審査において説明する必要がありますが、②について理解を得ることは難しいと思われます。
補足の3点目はオファリングについてです。
キオクシアの訂正届出書によれば、海外向けの50,380,100株は、欧州及び米国を中心とする海外市場での販売となる予定で、米国についてはルール144Aに従った適格機関投資家に対する販売のみに販売するとのこと。
グローバル・オファリングは、米国法の適用態様の違いにより、①Registered Offering、②144A Offering、③Regulation S Offeringが存在しますが、キオクシアはこのうち②ということですね。米国での販売が適格機関購入者(qualified institutional buyers)に限定されるので、米国での継続開示義務が免除される方式です。
キオクシアのグローバル・オファリングは、①国内募集、②引受人の買取引受による国内売出し、③オーバーアロットメントによる売出し、④海外売出しの4つにより構成され、ジョイント・グローバル・コーディネーター(JGC)は、Morgan Stanley & Co. International plc、野村證券及びBofA証券とのこと。
グローバル・オファリングは、三菱(というよりモルガン・スタンレー)は強いですね。