本年(2024年)10/2に、東証とJPX総研が、JPXプライム150指数の構成銘柄について、資本収益性や市場評価、成長性等に関する指標や独立社外取締役の選任状況や取締役会議長及び指名委員会・報酬委員会の属性、女性役員比率等のコーポレートガバナンスの状況をリストとして取りまとめて公表しています(jpxprime150status_j.xlsx (live.com))。
今回のリストの公表の目的は、「価値創造が推定される我が国を代表する企業を見える化すること」です。
経緯を含めて説明すると、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議が過去(2023年と2024年)に公表したアクション・プログラムで示された、「グローバル投資家の期待に自律的、積極的に応える企業群の『見える化』」に対応したものです。
ところで、JPXプライム150指数の構成銘柄がどのように選定されるかご存じでしょうか?
JPXプライム150指数は、東証が公表する株価指数であり、東証は、東証プライム市場に上場する時価総額上位銘柄を対象に、財務実績に基づく「資本収益性」と将来情報や非財務情報も織り込まれた「市場評価」という、価値創造を測る二つの観点から選定した銘柄を「価値創造が推定される我が国を代表する企業」と位置付け、これらの銘柄により構成する新たな株価指数「JPXプライム150指数」を公表しているのです。
そして、東証は、JPXプライム150指数の銘柄の選定基準である「資本収益性」については、ROEと株主資本コストの差である「エクイティ・スプレッド」を採用し、もう1つの選定基準である「市場評価」については「PBR」を採用しています。
東証の説明によると、
「ROEが投資家の期待リターンである株主資本コストを上回ると、エクイティ・スプレッドはプラスとなり、価値創造が推定されます。」
「株価が1株当たり純資産であるBPSを上回ると、PBRは1倍を超え、価値創造が推定されます。」
とのことです。
これだけだと少しわかりにくいので、補足しますね。
【補足①】
まずは、「JPXプライム150指数」が重視するエクイティ・スプレッドとPBRについて、この2つの指標の関係を考えてみましょう。
当期純利益は予想1期目(t=1)という前提で、
PBR=ROE×PER
PER=1/(株主資本コスト-成長率) 下記(※)参照
エクイティ・スプレッド=ROE-株主資本コスト
なので、
PBR=ROE×PER
PBR=ROE×1/(株主資本コスト-成長率)
PBR=(エクイティ・スプレッド+株主資本コスト)/(株主資本コスト-成長率)
となります。
そうすると、「市場評価」であるPBRを上げるためには、株主資本コストの場合、①分子のエクイティ・スプレッドを上げる(=ROEを上げる)ことと、②分母で株主資本コストから引き算される「成長率」を上げることが重要であることが分かりますね。
PBR↑=(エクイティ・スプレッド↑+株主資本コスト)/(株主資本コスト-成長率)・・・①
PBR↑=(エクイティ・スプレッド+株主資本コスト)/(株主資本コスト-成長率↑)・・・②
そして、多くの場合、成長のためには、一定の投資が必要で、投資により一時的にROEが下がります(=エクイティ・スプレッドが下がります)ので、成長投資の余地が少ない成熟企業は①を重視、成長が見込めるスタートアップは短期的には①を犠牲にしてでも②を重視ということになりそうですね。
つまり、上述の東証の説明内容のうち、「株価が1株当たり純資産であるBPSを上回ると、PBRは1倍を超え、価値創造が推定されます。」については、価値創造のために、2つのルートがあり、企業のステージにより使い分けがされるということになりますね。
(※)
株式時価総額=当期純利益(t=1)×PER・・・①式
「当期純利益=株主に帰属するFCF」かつ、将来の当期純利益が毎期g%で成長する場合、株式時価総額は、成長型永久債の公式(PV=C/(r-g))を使って以下のように計算されます(rは株主資本コスト)。
株式時価総額=当期純利益(t=1)/(r-g) ・・・②式
上記の①式及び②式より、
PER=1/(r-g)
【補足②】
次に、東証の説明にある「ROEが投資家の期待リターンである株主資本コストを上回ると、エクイティ・スプレッドはプラスとなり、価値創造が推定されます。」について補足です。
エクイティ・スプレッドと似たものに、EVAスプレッドがあります。
EVAスプレッドは以下のように計算されます。
EVAスプレッド=ROIC-WACC
EVAスプレッドが正の値をとる場合、「企業価値」が創造されるとされます。
また、ある年の投下資本にEVAスプレッドを乗じることにより、1年間で創造された「企業価値」の金額(EVA)が計算されます(EVA=(ROIC-WACC)×投下資本)。
上記と同じように考えれば、エクイティ・スプレッドが正の値をとる場合、「株主価値」が創造され、また、ある年の株主資本にエクイティ・スプレッドを乗じることにより、1年間で創造された「株主価値」の金額が計算されるということがわかりますね。