キャリアフィロソフィーの「金融花伝」④:コーポレートガバナンス・コードの「きほんのき」

コーポレートガバナンス・コードは、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化を目的として、政府主導のもと、東証が上場会社を対象として定めた規範・原則です。

大きく5つの基本原則で構成され、(1)株主の権利・平等性の確保、(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働、(3)適切な情報開示と透明性の確保、(4)取締役会等の責務、(5)株主の対話、に関する指針が示されています。

「コーポレートガバナンス・コードってつかみどころがない」という声を聞くことがありますが、①前文を読む、②コードの特徴を理解することが、「考え方の理解」に繋がり、コードを読み解く力になると考えています。

前文である「コーポレートガバナンス・コードについて」の内容は以下です。

~本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、 投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。~

上記より、コーポレートガバナンス・コードが、
・意思決定を行う際に考慮するべきステークホルダーを株主に限定せず広くとらえている。
・コードの目的を、「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」に置いている。
ことがわかりますよね。

上記はいずれも、一昔前の米国や日本で見られた、株主至上主義的な志向、短期的利益追求を優先するような志向、とは一線を画しているように見えます。
コーポレートガバナンス・コードは、そのような価値観に基づいて策定された原則であることを、まず、理解しましょう。

次に、コードの特徴ですが、(上記とも一部重複しますが)全体を通した特徴は、①プリンシプルベース・アプローチを採用していること、②コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)方式を採用していること、③OECDコーポレートガバナンス原則に沿っていること、④より踏み込んだステークホルダー論を採っていること、⑤利益相反への対応、少数株主の保護といった視点が多いこと、⑥モニタリングモデルに軸足を置いていること、⑦プロセスの重視とリスクテイクの推奨をしていること、だと思います。

それぞれ補足しますと、

まず、①のプリンシプルベース・アプローチ、とは、抽象的な原則のみを示し、その原則を踏まえてどのように行動すべきかについては、当事者の合理的な判断に委ねるというもので、対極にあるルールベース・アプローチと比較すると、環境変化や新しいビジネスモデルの出現があっても対応可能等の利点がある反面、行政上の不利益処分を行う場合などには向かないと言われています。

次に、②コンプライ・オア・エクスプレイン方式というのは、当事者に対し、各原則を遵守するかしないかの判断を任せたうえで、遵守しない場合にはその理由を説明することを求めるもので、エクスプレインの内容が適切かどうか、合理的かどうか、の評価は、株主・投資家の判断に委ねられる仕組みです。
法的拘束力はありませんが、エクスプレインが著しく不十分な場合や、虚偽であった場合等には、取引所の実効性確保措置(特設注意市場銘柄への指定、改善報告書の徴求、公表措置、上場契約違約金が有価証券上場規程第5章に定められている)の対象となります。

また、③OECDコーポレートガバナンス原則に沿っていること、が意味するところは、グローバル・スタンダードといえるOECDコーポレートガバナンス原則を踏まえたものであるため、国内のみならず、海外の発行体や機関投資家などの目線を意識したものとなっているということです。

そして、④より踏み込んだステークホルダー論を採っていること、とは、前述のとおり、意思決定を行う際に考慮するべきステークホルダーを株主に限定せず広くとらえていることです。
従業員、取引先、地域社会を含む多様なステークホルダーとの関わりにおいて企業が成り立っているとの考え方で、決して株主至上主義的な志向ではないということです。
この考え方が、コーポレートガバナンスにどう影響を与えるかと言えば、例えば、買収提案の受領や利益相反取引などの有事の場合における対応に影響すると考えられます。
極端な例では、受け取った買収提案における買収後の施策が「資産売却、解雇、会社の解散による株主利益の最大化」だった場合、株主だけの利益を考えるのと、多様なステークホルダーの利益を考えるのとでは、経営判断が異なる可能性がありますよね。

さらに、⑤利益相反への対応、少数株主の保護といった視点が多いこと、についてですが、具体的には、株主と経営者との間に利益相反が起き、その結果、少数株主の利益が損なわれるおそれがある場合に備え、社外取締役を充実させることを要請する規定や、有事の対応を平時に手続きとして定めることを求める規定が多くなっていることを指しています。

そして、⑥モニタリングモデルに軸足を置いていること、ですが、モニタリングモデルとは、取締役会の機能のうち、「監督機能」に重点を置くもので、業務執行と監督の分離を進めたうえで、事後的な業績評価を踏まえた人事権の行使(指名・報酬の決定)による監督を行う経営スタイルであり、コードはこのモデルを望ましいと考えているように見えます。

最後の、⑦プロセスの重視とリスクテイクの推奨は、コードに従い定めた方針や手続きが合理的なものであれば、その手続きを踏んでなされた意思決定は、たとえその結果が損失に結びついたとしても、取締役は免責される、そしてこの構図が、健全なリスクテイクを促すことにつながると考えられる、というものです。

上記を踏まえて、改めて、コードを読んでみると理解が深まると思います。

なお、東証が本年2月21日に公表した「新市場区分の概要等について」においては、2022年の新市場区分への移行を目指す過程として、2021年春に、コーポレートガバナンス・コードの見直しが行われる(=プライム市場の上場企業への適用を念頭に、より高い水準が示される)予定とされています。

(次回は、「IPOの基礎」を掲載予定)