キャリアフィロソフィーの「金融花伝」⑧:社外取締役について

頻発する上場会社の不祥事や、我が国企業の競争力低下への対応として、コーポレートガバナンスの重要性が叫ばれています。

また、それにつれて、社外取締役に注目が集まっています。

社外取締役が注目されている理由は、上場会社のコーポレートガバナンスを充実させるうえで、社外取締役の果たす役割が大きいからです。

また、その企業や業界の常識にとらわれない視点を経営に取り込む目的で社外取締役を増員する企業も増えています。

制度的には、令和元年改正の会社法において、上場会社に社外取締役を置くことが義務づけられました。

また、東証は、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役を「独立役員」と定義した上で、上場会社に独立役員1名以上確保することを義務付けています。

さらには、コーポレートガバナンス・コードは、「上場会社は独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき」と規定しています。

社外取締役の役割は、以下の4点と考えられます。

  1. 経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、助言を行うこと
  2. 取締役会の重要な意思決定を通じ経営の監督を行うこと
  3. 会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
  4. 経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること

上記のうち①の「助言」以外の3つの役割は、いずれも「監督」機能に関するものと考えられますので、簡単に言えば、「助言と監督が社外取締役の役割」ということですね。

実際の上場会社について見てみると、社外取締役の経歴は、上場企業の取締役経験者、テクノロジーなど専門分野の学者、弁護士・公認会計士等の専門家など様々です。また、近年は、ダイバーシティを確保する観点から女性、外国人の就任も増えています。

役割との関係でいえば、前述の「助言と監督」のいずれかに重点を置かれるケース(助言に重点を置き、学者が就任するケース等)もあれば、両方とも期待されているケース(弁護士資格をもつ会社経営者が就任するケース)などがあるように見えます。

社外取締役の役割のうち、3点目(③会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること)と4点目(④経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること)の発揮が特に求められる重要な局面として、以下に関する意思決定(取締役会決議等)があります。

  • MBO(マネジメント・バイアウト)
  • 支配株主による従属会社の買収
  • 支配株主等との取引
  • 敵対的買収への対応(受け取った買収提案への対応、買収防衛策の導入や実行等)
  • 第三者割当増資

上記はいずれも、取締役や支配株主の利益と一般株主の利益が反する、いわゆる「利益相反」リスクが特に深刻となり得る場面であり、社外取締役が大きな役割を果たすことが期待される局面です。

利益相反が存在する局面においては、利害関係のある者がその判断に関与することは適切ではないため、独立的な立場から社外取締役が積極的に関与し、その妥当性を判断することが期待されるのです。

なお、多くの上場会社にとって、上記の多くはスポット取引であるのに対して、上場子会社については、親会社との役員兼務が存在する中で、「支配株主等との取引」が恒常的に行われることが多く、その場合、利益相反の構図が恒常的に存在します。そのため、「上場子会社については一般の上場会社よりも社外取締役の比率を高めるべき」との意見が多く聞かれます。

また、監督機能を発揮する上で、経営陣の指名・ 報酬決定等への適切な関与が重要となります。

近年は、任意に指名・報酬委員会を設置する上場会社が増えていますが、委員会のメンバーは社外取締役を中心に構成されるのが通常となっています。

このように、社外取締役の役割への社会の期待は大きいのですが、1人の社外取締役に全ての役割を完璧に発揮することを求めることは多くの場合適切ではないように思います。

例えば、テクノロジーなど専門分野の学者である社外取締役は、技術開発等の意思決定に際しては適切な助言ができるかもしれませんが、敵対的買収を提案されたときの対応についてはあまり知見がないかもしれません。

逆に、弁護士、会計士である社外取締役は、MBO(マネジメント・バイアウト)、支配株主による従属会社の買収、支配株主等との取引などの際には、適切な監督機能を発揮することができると思われますが、ビジネス面での助言は弱いかもしれません。

従って、取締役各人の専門分野、得意分野について、相互に補完関係となるように、取締役会構成を工夫することが重要と考えられます。

また、社内や業界の常識にとらわれた偏った意思決定とならないように工夫することも重要です。例えば、「男性である日本人」が経営陣の大半を占める会社であれば、経営判断に偏りがでないよう、女性や外国人の社外取締役を入れることは有効かもしれません。

取締役会構成の適切性を積極的に開示する会社も増えています。例えば、各取締役がどのようなスキルを有しているか、バランスがよいか、について、スキル・マトリックスを作成し開示する上場会社が増えています。

2022年4月に一斉移行が予定されている3つの新市場のうち、最もステイタスの高い「プライム市場」向けを想定して、今春にコーポレートガバナンス・コードの改訂が予定されていますが、社外取締役の充実が盛り込まれることが予想されるなど、社外取締役への期待はますます大きくなってくると考えられています。

このように社外取締役への需要が堅調である一方で、人材の供給不足が懸念されており、人材マーケットの効率化がますます求められていると認識しています。

(次回は、「東証の市場区分再編」を掲載予定)