キャリアフィロソフィーの「金融花伝」⑪:グロース市場について改めて考える

本年4月4日に、東証の市場区分再編が完了し、マザーズは、「グロース市場」に衣替えしました。
グロース市場のコンセプトは、マザーズ同様、「高い成長可能性を有する一方で、事業実績等の観点から相対的にリスクが高い企業のための市場」です。

今回は、高い成長可能性と高いリスクの関係について、整理してみました。

投資家は、リスクの程度に見合ったリターンが期待できる場合にのみ、企業へ資金を提供します。すなわち、投資のリスクが低ければ、低いリターン(見込み)でも許容する一方で、高いリスクを伴う投資には、高いリターンを得られる見込みがあることを求めます。

ここで、株式に投資する投資家にとってのリスクとは、将来、配当や株式の売却から得られる資金回収の金額や時期等に関する不確実性をいいます。

そして、投資家は、その不確実性(リスク)の程度に応じた利回り(=株主資本コスト)を想定し、配当や株式の値上がりによって、株主資本コスト以上のリターン(例えば、IRR 法(Internal Rate of Return Method、内部収益率法)によって評価される)が得されることを期待します。

一方、企業サイドとしては、投資家からの資金提供を受けるためには、投資家(株主)から拠出された資金を事業に投下し、売上・利益の成長を実現し、それにより、投資家(株主)が想定する株主資本コスト以上の成果(リターン)を得られることを目指す必要がありますが、企業サイドは個々の投資家の売買のタイミングや投資成果をコントロールする立場にないため、例えば、中長期的に株主資本コスト以上のROE を達成すること等を目指すことになります。

そして、投資家のリスク(不確実性)は、投資先企業の将来の業績等の不確実性に起因するものであるため、結局は、その企業の将来の業績等の不確実性(リスク)が高ければ、そのような企業は、売上・利益の成長率も高い水準である必要があることになります。別の言い方をすれば、事業特性に応じたリスクであれば、投資家(株主)はそれを許容するわけであるため、事業におけるリスクが高い場合でも、企業は積極的にリスクテイクをすることにより、高い水準の売上・利益の成長を実現すればよいことになります。

多くのバイオベンチャーにみられるような研究開発費の先行投資、新規性の高い事業を営む企業による多額の広告宣伝費の先行投資などは、積極的なリスクテイクによって高い水準の売上・利益の成長を目指す例として挙げられます。

上記は、市場の原理であり、東証が、事業実績の観点から相対的にリスクの高いグロース市場の適合要件に、高い成長可能性を有することを据えていることは、当該市場の原理を考慮したものであり、極めて合理的なものと考えられます。

IPO関係者は、上記の市場原理を十分理解することが重要ですね。
そして、特に、上場準備会社は、上場後に、投資家が自社に対してどの程度の利回り(=株主資本コスト)を求めるかについて、具体的に想定しておくことが必要です(注)。

(注)コーポレートガバナンス・コードは、「原則5-2」において、「自社の資本コストを的確に把握」することを要請している。この場合の「資本コスト」は、負債を利用しない会社の場合は「株主資本コスト」であり、負債を利用する場合は「加重平均資本コスト(WACC)」と考えるのが自然であるが、加重平均資本コストの把握のためには、通常、株主資本コストの把握が必要であるため、いずれの場合でも、「原則5-2」をコンプライするには、株主資本コストの把握が必要ということになる。もっとも、現行制度においては、グロース市場上場会社は基本原則のみの適用で、原則・補充原則へのコンプライ・オア・エクスプレインの義務は負わない。